遊動亭円木 辻原登
川上弘美『大好きな本』より
人が生きるとは、何なのか。
残酷と可笑しさが薄い皮膜一枚で隔てられていると言うことが生きているというのとなんですね、と。
ほむ。
一理ある。
おもしろきこともなき世をおもしろく、すみなしものは心なりけり、か。
高杉先生、さすがです。
ところで、最近読んでいる本を聞かれて、"書評"と答えるのに気がひける。
文学でも実用書でもないからか。
面白さを考えながら、ページを進めて気付いた。
「昨日○○って本読んでね、▲▲って思った」
「へぇ、私も読んでみようかな」
と、こんな感じ。
欠乏している。スーッと染み込む。
これもまた、今の生活の知的欲求への皮肉と可笑しさか?
さて、本書を早速手に取る。
18年程前の書籍らしい。
表紙もさることながら、文体も粋。
落語家の噺を聞いているようだ。
「吉原の大門〜」なんてくだりもある。
設定はいつなんだろう。
主人公 円木は、盲の落語家。
眼球の裏側、頭蓋に向いた世界を"奈落"と表している。
ともすれば、噺になぞらえて仲間、昔の女、世話になった兄貴、妹夫婦との日常が皮肉に可笑しく語られる。
哀愁とセクシーさを感じる。
生きるとは、オトナとは。
その懐どっぷり甘えて読める。
前提は、盲じゃなく、誰でも自分に置き換えて楽しめる、そんな本。